今月の市村清
Monthly
“今月の市村清”―2025年9月編―
お客さまもセールスマン
―誠心誠意をつくすこと―
今年の夏は地球温暖化の進行に加え、ラニーニャ現象の影響が重なって異例の暑さとなりました。まだまだ残暑は厳しく、外で働く人たちにとっては命に関わる危険な暑さです。油断せず熱中症予防など気を付けて過ごしたいですね。
さて、市村が理研感光紙九州総代理店の権利を譲り受け感光紙の販売を始めた頃の話です。
真夏の暑い時期に、4キロ以上離れた所のお客さまから“感光紙を1本急いで持って来てくれ”という注文を受けました。1本というのは、幅80センチ・10メートル巻きで、当時の売値が80銭。どちらかといえば小口の注文です。他に大口の仕事があるといって気の進まなそうな店員に、“大口のお客は待たせても忙しかったのだろうと思うくらいだが、たった80銭の注文をした客は小さいだけに扱いは大切にしないといけない”と、すぐに行くように言いました。ところが、店員が出てすぐにそのお客さまから“現像に使うアンモニアを頼むのをうっかりした。45銭くらいで申し訳ないが、それも1本ついでに持ってきてくれ”と再度注文があったのです。
仕方なしに市村自らが暑い中自転車をとばして持って行く事にしましたが、この頃はまだ道も悪く、埃と汗で顔も背中もぐっしょり。このまま行ったらお客さまが恐縮してしまうだろうと思い、お店の手前にある小川で汚れた顔をきれいに洗ってから出向くと、お客さまは市村の心配りと誠意にいたく感激し、それ以降どこへ行っても「市村という男はえらく誠実な男だ。感光紙ならあそこのを買え」と、そのお客さまは徹底して市村の宣伝係となったのです。それからというもの、どれほどこの小さなお客さまが市村の信用を高めてくれたか計り知れません。
後に、市村はこの経験をモットーとして社員へメッセージを発信しています。
—自分が売ってくるのはタカが知れている。多くのお得意さんが、君たちのセールスマンになってくれなければ、どうして他人以上の売り上げをあげることができよう。要は、どんな小さい顧客にも誠心誠意をつくすことだ。相手の立場をのみ込んで行動すれば、相手はきっと君たちのセールスマンになってくれる。―